2012年7月5日木曜日

「僕は君たちに武器を配りたい」他 瀧本哲史著 〜「武器」三部作〜

最初の一冊は講談社から、残り二冊は星海社より発行。
 「この本にあと8年早く出会いたかった。。」
三日間で一気に三冊読み終わって、つくづく思う。いつもよりも荒削りな読書感想になってしまうが、多くの人(特に子どもを持ちながら働いている女性)に読んでもらいたい「熱い著書」である。

最初にこの瀧本哲史氏の「僕は君たちに武器を配りたい」を知ったのは「HONZ(成毛眞氏代表)」 の「おすすめ本」紹介だった。内容が気になったので無く
「変わった装丁で、その点も刺激的だ。」
というコメントが印象に残ったからだ。(仕事柄レイアウトには鋭く反応!)

その後、偶然書店で見かけて本当に変わったレイアウトに、つい買ってしまった。でも、それっきり積ん読状態で10ヶ月以上放置。
そこへ偶然、著者である瀧本氏の映像を観る機会があった。(NHK「日本のジレンマ」)真っ赤なネクタイで、ひときわ鋭いコメントをするのが印象的で、あの人がこの本の著者かと、その後気が付いた時には、その偶然に少し嬉しくなった。

瀧本氏はまだ30代の若さで、私が密かに「優秀」と恐れている世代の代表格と言える。京大の客員准教授ではあるが、司法を学び、マッキンゼーでコンサルの最前線を経験した、歴戦のツワモノである。エンジェル投資家(操業まもない企業の雛を育てる投資家)として活躍されている。
同氏は明確に読者を「20代」と規定し、公演も学生向けが多く、これから社会へ巣立つ若者達が、知っておくべき必要な道具(武器)をどんどん、彼、彼女らに納入している。しかし、冒頭でも述べた通り、必ずしも有利な立場に立てるとは言えない女性(未婚/既婚/子持ち)にも、これは有益な「武器」だとつくづく思う。
え〜!こんなに大きい文字、と思うけどフォントスタイルを軽くして重たさを軽減している所に精緻な計算力を感じます。

ありえない程マージンギリギリのノンブルと柱。製本屋の腕が良く無いと難しい。

武器三部作
詳細は是非本書を読む事をおススメしたいが、この三冊は
  1. これから社会に出るに当たって心得ておく事、総覧(僕は君たちに武器を配りたい
  2. ものごとを判断して決める際のプロセスの話(武器としての決断思考
  3. 生きるとはすなわち「交渉」の連続であるという話(武器としての交渉思考
とそれぞれ明確に性格づけがなされている。内容に殆ど「ダブり」が無い所が、さすがマッキンゼー仕込みと思うが、徹頭徹尾クールな分析ばかりでなく「具体的な事例」や「熱い思い」が織り込まれている所に、瀧本氏の人間性を感じる。きっとこれからも的確なテーマ設定で続編が出るだろう。


あの時この「交渉思考」を知っていたら
この三冊には、豊富な「武器」がとりどり用意されているが、最も印象深かったのは最新刊の「武器としての交渉思考」である。

もはや時効なので、書ける範囲で書いてしまうが、20年近く働いて、今でも一番辛かった思い出がある。8年前、まだ二番目の子どもが一歳だった時、育児休業から復帰して最初の面談で当時の上司に
あなたには製品に関わるライン業務は任せない。
と告げられた。理由は
  • こどもの為にいつ何時休まれるかわからないから。
  • 遅くまで残業が出来無いから。
  • 定時後に出なければならない会議が多く、それに出られない人は担当になれない。
である。当時の私はこの勧告に、何一つ抗弁出来なかった。
「だって、こどもが病気したらやっぱり休むでしょ?」
そう詰め寄られると、怖じけてしまう気持ちがまさって、ただ黙るしか無い。
確かに子どもの体調不良は予測が効かない。これが最初の子の時だったら、怖いもの知らずで
「そんな事ありません、出来ます。」
と言い切れただろうが、既に上の子でどれだけ子どもが体調を崩し易いか知っていたので
「ぐぐううう。」
と弱腰になってしまった。後で夫からは
「そんな事無い、出来ますって押すんだよ。」
と発破を掛けられたが、一対一の面談でこちらが弱い立場に追い込まれると、そんな判断さえ出来無い。それに、どれだけ夫が頼りになるのか、その点やや懐疑的だった。

夫婦は似た年齢の場合が多く、夫だって「ここ一番」というスプリング・ボードの時期がある。ちょっとキツイ、ジョブ・ミッションをこなして「一人前」と認められる時期に、果たして「妻の栄達」の為にどれだけ譲れるものなのか。
口ではリベラルに「女性の社会進出を理解している」と言うだけの輩は多い。それは、働きながら嫌という程見て来た。そして、その事に不満を抱いているだけでは「何も解決しない。」という事も同時に経験したのである。

この話の顛末は、申し入れを飲み、やってもやらなくてもあまり影響の無い業務を任され、その後はこれまで見た事も無い最低の評価ランクを頂戴するハメになった。このままでは「飼い殺し」の憂き目に遭うと、捨て身の戦法で辛くも異動する事が出来たが、この時の評価は経歴の中にしっかり残ってしまった。

自分でも、意図的に忘れようとした事だが、この「交渉思考」を読んだ時、急に記憶が甦った。もしあの時、これを知っていれば、もう少しマシなやり取りが出来たかもしれない。例えばこんな感じに。。。

「確かに、私は小さい子どもが居ます。その状況はもはや変えられません。ところで、私には業務を任せられないとの事ですが、その要件を満たすのは『いつ何時でも無理難題に対応出来ないから』でしょうか?その難題を『手前で予測し予防する能力』は必要無いのでしょうか?子どもが居ようが居まいが、誰にだって不測の事態で体調を崩す可能性はあります。そうなった時、いつでもバックアップに入ってもらえるよう、業務をガラス張りにしておく日頃からの心がけはこれから必要無いのでしょうか?予め、そうなる事が予想されやすい私の方が、よっぽどお役に立てると思うのですが。」

まあ、例えこう答えたとしても、評価も変わらず、そんな上司の元では仕事が出来無いと、異動願いを出して結果は変わらなかったかも知れない。

それでも、きちんと自分の切れるカードと、相手が最も価値を置いているポイントはどこなのか、しっかり読んで交渉に当たっていれば、その後の過ごし方が違ったと思う。
無為無力感に苛まれ、時間を空費してしまった事こそ、最大の損失である。過ぎた時間は戻らない「サンクコスト」として考えなければならないが、後から同じ道を通るかも知れない人に、この経験値を伝授する事だけは出来る。
だから、瀧本氏は若い人達に、繰り返し語り続けているのだろう。
「儲けたいなら『老いとは何か』って本を書いています。」 
とは、けだし名言である。

もし、このブログを若い世代の女性が読んだなら、是非、この経験値を参考にして頂きたい。そして、渦中にあったり、もう「諦めよう」と思っている人には
「今からでも、出来る事をやってみようよ。」
と語りかけたいのである。「武器としての交渉思考」の最後にこう書いてある
Do your homework(自分の取り組むべき宿題を見つけて取りかかろう)

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