2012年1月1日日曜日

【謹賀新年】新春にふさわしい切れのある100年インタビュー「塩野七生さん」 〜おんな司馬遼太郎〜

あけましておめでとうございます。
今年は無事な一年でありますように、、とお祈りした矢先、早速の地震でややドキドキ。なにごとも無いと良いのですが。

さて、新春一番のエントリーは何が良いかと考えていた所、偶然NHKで塩野七生さんの100年インタビューが放映されていました。

塩野さんと言えば「ローマ」の人で、私もまだ著作を読んでいないのですが、いつか読みたいと思っている作家さんです。夫が文庫本に挑戦しはじめているので、そのうち、後に続こうと思いますが、ご本人がお話されているのを初めて聞いて
「ああ、歯に衣着せぬ物言いで、非常に気持ちのいい人だなぁ。」
と思いました。チャキチャキの江戸っ子で、生涯現役。先日「十字軍」を完成させたばかりだそうです。
既にローマの永住権を得ているので、作家活動の殆どはイタリアですが、日本に対する思いは深く、インタビューの中で語られた指摘や提言の鋭さに、うなりました。

NHKオンデマンドでも視聴可能ですが期限が今日までなので、これは!と思った内容をかいつまんで抄訳してみます。


言葉とは
物事が想定通りに進んでいるのなら、「言葉」は必要の無いものである。まあ、普通は想定通りになんて進まないので、その時に「言葉」の出番である。現代の政治家は「言葉の使い方」を知らない。(『何ゆえ、マニュフェストは実現出来ないのか、それはかくかくシカジカで』と語る為に言葉はあるのである。)

リーダーの資質
古代の男達は、命を取られるリスクを負い、そこまで追い込まれていたから、持てる資質を十分発揮していた。現代はそこまで追い込まれている訳では無いし、辞任だの謝罪会見だの、あの程度は「リスク」と言えない。
いつの時代でも「資質を持った人材」はいるのであって、特別に古代の人達が優れていたという話では無い。

イタリアの教科書に載っている「リーダーの条件」
  1. 知力 知識は貯める事が出来るが、知力はアタマの使い方
  2. 説得力 敵を説得する為の力。考えの違う人達を自分の考えに引き寄せる
  3. 肉体的持久力 激務に耐えるには耐久力が必要(筋力があるとかでは無くタフさ)
  4. 続ける意思 ぶれない
  5. 自己制御力 シーザーの言葉「我々は地位が高くなる程不自由になる。市井の男が怒ればそれだけだが、我々が怒ってしまうと、誰かの命が取られる可能性がある。」つまり『職責』を考えた上で自己を抑制する能力が必要である。
「リーダーに必要なのは、決断力であるとか、実行力であるとか、、、よく言われるが、それは上っ面の結果を見ているだけで、この5項目を備えているのなら、当然そんな事は出来るはずである。」(おっしゃる通りです。)

ローマ帝国が1000年続いた理由
  • 被征服民も共同体に入るのなら市民権を与えた
  • 防衛線は設けたが、国境という考えを無くした
  • ギリシャアテネではアテネ市民になるには、両親共アテネ市民でなければならなかった(ローマの施策は画期的であった)
  • ローマの「寛容(クレメンティア)」
  • 格差のある社会ではあったが、非常に流動的であった
1000年間も続いた帝国は、ローマの前にも後にも無く、この続いた秘訣はここにあった。有名な「五賢帝時代(ローマの安定と繁栄をもたらした時代)」の皇帝達は、皆「被征服民」出身だったり、貴族出身で無い人だったりと様々であった。

格差は無くならない
  • 格差が無い社会などない。
  • 問題は、格差が「固定化」する事で、この瞬間に国家は衰退を始める。
  • 格差があっても流動性を保証して「どうぞ努力して下さい」というシステムにしていた。
  • 中産階級にボリュームがあり、安定して豊かな国家は長続きする。
  • どの国にも、どの時代にも人材は居る。それを活用するシステム(見いだす仕組み)が生きていなければ国家は衰退する。
  • リーダーだけでは上手く行かない。素質を持つ人達を適材適所に登用すれば相乗効果で効果は倍増する。

多神教の強さ
ローマが繁栄を遂げる事が出来たのは、「寛容さ」と「多様性」を内包出来たからだが、その素地になったのは「多神教」だったからである。一方、一神教の危うさは狂信(ファナティック)的な方向に走りがちになる。これは「無知(知らない)」が元凶でもあろう。(十字軍遠征を書いたのはこの為で、敵味方双方に、それぞれ『相手の事を知ろう』する人々が居ると考えたから。)

新しい事が生まれる素地
日本は今「覇気が無い」と言われている。ここ数十年は資産を食いつぶして来た感もあろう、しかし、ゆっくり過ごしたその間に 無駄な事をする余裕(精神的/物質的余裕)があったのでは無いか。(料理とお菓子の種類が無駄に多いのがその現れ)しかしながら、その『無駄に多い』中からしか「新しいもの」は生まれない。

新しい事が始まる時「既得権者」は「損をする」ので気が付くのが早い(だから新しい事反対!となる)。
一方、物事が動く時には、必ず得する人も生まれるはずなのだが、何しろ新しい事なので新規の得する人は「気が付いていない」事がままある。ここで重要なのが、政治家が言葉で説明する事である。

日本人の欠点
日本人は具体的な問題に対処するのは得意である。であるが、抽象的な事案を想定する事が不得手。
この様な民族であるのなら、その特性を伸ばして行けば良い。イタリアで言えば「ベネチア公国」に学ぶと良いのでは無いか。(高級織物、知的集約産業である出版業に力を入れたローマ周辺国家)
お金になる芽を見つけ、そこに集中投資して、これでみんなで食って行く(ローマは超大国なので、真似のしようが無い)
  • 徹底した合理化
  • 人材登用
  • 情報の重要性を認識する(←今の日本に最も欠けている)
というのが、ベネチアが取った戦略である。

歴史を知る意味
自分の人生はたかが知れているが、歴史を知れば何百倍もの人生を送る事が可能である。「歴史は使うものである。是非使って欲しい」


「ああ、この人は『おんな司馬遼太郎』だな」
と思いました。事実インタビューの中でも

「司馬遼太郎先生に『日本には「歴史研究」と「歴史小説」しか無い。しかし、君はその間を行こうとしているんだね。』と言われました。」

と語っています。それは傍流である事を意味しているのだけれど、塩野さんはそれで良いと思ったそうで、なぜなら「歴史を通して人間達(カエサル等の歴史上の英雄)」を描きたいのだから、その為の方法に「研究」なのか「小説」なのか、どちらかでなければならない、、と決めるのはばからしいと考えたのだと思います。(私も賛成)
司馬さんも、塩野さんのそんな思い切りの良さを高く買っていたんだろうなと思いました。

今後、どうしても書きたい人物が二人居るとか。。
「生きていれば書く予定です。」
と語るその熱意には、本当に感服。
魅力的でキリリとした素敵な女性だと思いました。(あんな風に年を重ねたいですね)

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