2011年12月9日金曜日

ドラマ 坂の上の雲 「旅順総攻撃」


好古@阿部ちゃん いよいよ奉天へ
真之@モッ君 知謀湧くが如し
本当に良く出来てるこのドラマ。惜しいなぁ。。やっぱり大河ドラマ枠で42回きっちり時間かけて放送すべきだったんじゃなかろうか。キャストの力量と使っている技術/演出を考えると。。もったいない。1回が90分放送とは言え、

・90分 X 13回 =1170分
・40分 X 42回=1680分(大河ドラマ)

その差510分。今回の90分枠だったら5.6回分、もう一年やるなら計算が合う。或は3年それぞれに振り分けた回を1~2回多くしていたら、丁度大河と同じかな。1年空いてしまうと話の流れを忘れちゃうしなぁ。「新シーズン直前再放送祭り」で二度美味しい!!も、うまい商売だけど。。(書店ではここ三年の年末は関連書籍がよく売れただろうなぁ。)

でも、やはり文庫で全8巻を13回に納めようと思うと内容がどうしても端折り気味になる感は否めない。「天地人」とか「江」とか同じ時代を隔年でやってもしかたないっしょ。一つにまとめて一年は「坂の上」に明け渡すべきだったんじゃないかと暴言を吐いてみる。日本人の「戦国好き」は多分に大河で放送し過ぎに責任があるんだから、もう少し選ぶ時代を考えた方が良いと思う。
しかし、今回はすごくいいんだけど、残念な点もいくつか。「萌え」ポイントと共につらつらと。


そりゃ無いでしょ、、「黄海海戦」
確かに原作を読むのはかなり根性がいる。「竜馬がゆく」に比べるとファンタジックな感じが少ないし、胸を熱くする活写も少ない。司馬さんって本気で書かせたら人の心を鷲掴みにする「超かっこいい」主人公が描けてしまう恐ろしい人なのですが、「坂の上」はその能力を封じ込めて、ストイックに史実を入念に調べて書き込んでいます。
脇道に逸れますが、私がもし司馬作品を一冊も読んだ事が無い人に薦めるとしたら迷わず「燃えよ剣」です。女子なら間違い無く主人公に惚れます。男子は完全に土方になりきるでしょう。(これまで薦めて一度も外した事無し!)数年前、山本耕二君が「新撰組!」で演じてくれたのは本当に幸甚でした。
軌道修正。
なので、かなり筋は複雑で、特に満州での陸軍の動きは1回読んでもよく頭に入りません。
今回のドラマでも、そこがどうしても判りにくい。あんなに略してしまうなら、せめて渡辺謙さんのナレーションをもっと丁寧に入れた方が、原作を読んでいない人にも流れが掴めるのではなかろうか。大事な事をさらっと台詞に織り交ぜると、きっと気が付かない人多数。
「あの『坂の上の雲』はよく判らない。」
と去年職場の同僚(原作は恐らく読んでいない)がボヤいていたのが凄く象徴的だった。
一番「そりゃないよ。」と思ったのが黄海海戦の略し方。さらっと海図一枚って、、、。あの黄海海戦の失敗がその後の日本海海戦に少なからず繋がるのになぁ。
「露探(ろたん:ロシア側のスパイという意味)」という言葉が当時言われて、海軍が全く業績を上げられない事に世論がこの言葉で突き上げる様が描かれている。
「重い重税で作った海軍なんだ、もっと働け!おまえら、本当はロシア側のスパイじゃないのか?」
と国民が(正確には新聞等のメディアが)海軍を突き上げて追い使う様子などは、その後の昭和前期とかなり違うのにな、、とか。
旅順港から、ソロリと顔を出してウラジオストックに逃げようとした旅順艦隊を、追いかけに追いかけ、最後は弾が尽きて「残弾無し」と白板に書かれたメッセージ(追撃中はとても声が通らないので、小さな黒板で連絡をやり取りしたらいしい。)を思わず艦長がバン!と投げつけて割る所は取り逃がした悔しさが滲み出ていて印象的なのに。
それが、全く、、、無いのが。。。


遼陽会戦の秋山支隊がかなり不明確
ここもかなり残念だったなぁ。原作でも好古がどう凄いのか、ぼんやり読んでいると今ひとつ掴めない。義経の鵯越えとか、木曾義仲の牛を使った戦法とか、三国志で言ったら諸葛孔明の奇策、、的な「劇画的」要素がある訳では無く、むしろ地味に
  • 情報収集(斥候を出す)
  • リソース手配(機関銃の配備)
  • 自軍の分析(騎馬隊の本質分析)
をヌカリ無くしっかりやった。が好古の凄い所で、私は二度目に読んでやっと理解出来た。一度目はただ字面を目で追って「読んだ」事にしてただけだったと猛省したので、ここの伝え方は難しいと思うけど、前回の放送では
「ぬ?何があった?何となく上手く行った?」
という印象ばかりだった。
確かにクロパトキンのベットを大山巌が使ったと記述されてるが、それほど尺を使うエピソードじゃないよねぇ。。


萌えましたねぇ
荒探しは本望では無いので、やっぱり萌えちゃったポイント

「おるもんは、おるんじゃ。」

いいよなぁ阿部ちゃん@好古。司馬さん存命中は、絶対に映像化を許さなかったこの小説。制作発表の時は賛否両論あったけれど、主役陣の配役を聞いてみんな黙ったのでは無かろうか。
「ああ、これなら絶対に大丈夫。」
この配役を考えた人と、オファーを取ったスタッフは本当に値千金だと思う。そうよね、この人達しかあり得ない。
阿部ちゃん本当にいい役者さんになったよなぁ。と夫と話すけど、彼が学生時代本屋でバイトをしていたら、その冬の手芸雑誌の表紙が全て阿部ちゃんだったそうだ。まだノンノモデルだった頃の話。バブル前夜で手作りセーターを意中の人に渡すのが女子達の共通目標だったなぁ。その象徴的存在が阿部ちゃんなわけ。男が見てもいい男だと思うそうです。
長身に長靴(ながぐつではなく、ちょうかと読んで頂きたい)乗馬服は彼でなければありえな~い。好古は当時でも大柄で長い脚を見込まれて騎兵科に配属されたんだから、この配役はばっちり。細かい事に見えるけど、そんな事実をキチンと積み上げないとリアリティは生まれない。
先に引用した短い台詞「おるものはおる。」は、好古のリアリズムを見事に体現していて、萌えましたね。
現実を見る、それがいかに自分にとって都合の悪い事でも事実として認識する姿勢。これは司馬さんがその生涯を通して、常に重きを置いていた人の生き方と言っていいと思う。
たぶん、後半の回に用意されている「松川@鶴見辰吾との対決」の伏線と思われますけどね。楽しみ、楽しみ。

「降ろせ!降ろさんか!大連まで行く。」

モッ君。本当に真之になってる。才気走って、きかん気が強く、表現力に富んだ末っ子気質。共演した香川さんが
「真之にしか見えない。」
と絶賛していたけど、私も完全同意。彼は司馬作品を演じる為に生まれて来たんじゃなかろうか。
ご記憶の方は少ないかも知れないけど、後の大器を思わせるきっかけが大河ドラマ「徳川慶喜」(司馬さん原作)で主役を務めた時。あれで慶喜のイメージはガラッと変わったし「元アイドルが」と誹る声を見事に覆したと思う。その後の活躍は周知の通り。年齢を感じさせない人だなぁと思うけど、今回はちゃんと歳とっているのがまたいい。
日本海海戦で「軍服にふんどし」の扮装はするのだろうか?


なぜ、サラリーマンがこれを読んだのか(読むのか)
この小説が書かれた高度経済成長期。「坂の上の雲」は連載最初はそんなに人気がなかったらしい。(「竜馬がゆく」も尻上がりに人気が出たとか)黒溝台会戦の章なぞは編集部に
「いつ終わるのか、日本海海戦はまだか?」
と苦情も入ったとか。
有名な「乃木無能論」が物議をかもし、今でも「あれは史実に反する」という反証本もある。今回のドラマでも旅順/二○三高地はきっと力を入れて描かれると思うけど、それが史実かどうか厳密に検証するのとは別に、この小説を通して描かれる、組織内の動き/力関係に、当時の(そして今の)サラリーマンは自分の身を重ね合わせて見てしまうのだ。
死山血海、数万の犠牲を払って繰り返される「思考停止状態」の作戦実行命令。効果が無いと判っているのに無策に繰り返され、血と鉄(兵と弾薬)を大本営に求める参謀達。
原作を読んだ人は知っていると思うが、司馬さんはそれを「執拗に描く自分が恥ずかしい。」と正直に書いておられる。
組織に属した事がある人なら、誰でも一度はこんな理不尽な目に遭った事があるだろう、児玉源太郎が来て胸のすくような「正義の英断」をしてくれないかと夢想した経験があるはずだ。だから、読み手は磁石に張り付く砂鉄のように、この物語に吸い寄せられる「そうだ、そうだ!」と心で野次を飛ばし、「いいぞ、ざまみろ。」と溜飲を下げる。
読み手がきっとそうなるのを司馬さんは十分に判っている。そして、そんなカタルシスの為に読まれるのを本望としていない。このアンビバレントな状況に、時折苦悩されているのを、他の著作を読むとチラチラと感じる。
「人間とは度し難いものだ。」
しょうもない愚かしさを、カラリと乾いたニヒリズムでスパッと表現する。グジグジといつまでも愚痴っているだけでいいのか?考えているか?っと常に問われているようで、そこが最大の魅力だと常に思う。


映像の力
まあ、いろいろ書きましたが、旅順攻撃のロケは圧巻。
「ああ、痛かったろうな。あの一つ一つが命だよな。」
と、思わずには見られない。
「ベトンで固めた堅牢な要塞の、表面に盛られている盛り土を弾き飛ばすだけ。」
がどんな状況だったのか、映像の力はその点凄いなとやっぱり感心する。
後年、この時の要塞攻めの話を聞いて育ち、詳細に絵を描いていた少年が、後に硫黄島守備隊隊長の栗林中将になる、、というのは「さかのぼり日本史」で知った事。
圧倒的な米軍の物量作戦に対して、一ヶ月も地下にもぐって粘り、散々に米軍を苦しめたのだが、日露戦争の旅順塹壕/要塞戦がモデルだったとは。。やはり、歴史は後世へ後世へと影響が渡って行く。

さて、残り3回どんな演出だろう。いろいろ楽しみである。
文庫版のイラストも凄く味があっていい。

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